spoon. 160号
- 本体価格 ¥907
- 発売日 2024.06.28
- コード 05475-08
- 表紙巻頭特集
- 特集「Stroking the Taboo」 猪狩蒼弥『先生の白い嘘』表紙巻頭12ページ
- 猪狩蒼弥『先生の白い嘘』表紙巻頭12ページ
- 以下特集リードより
2013年から4年間『月刊モーニング・ツー』で連載されていた鳥飼茜の『先生の白い嘘』は今にして思うと、その後の世の中の趨勢を予言していた画期的な作品だった。映画では奈緒が演じる主人公の高校教師・美鈴は、人間観察は得意だが流されやすい性格で、美容にも無頓着で、自分が異性から女性として見られていないと思い込んでいる。その隙を突かれて友人の彼の早藤に凌辱されてしまう。明らかな性被害を受けたのに、美鈴はその後も早藤との歪んだ関係を続けつつ、世の中の建前と本音について、自分の中の女性性について一人で葛藤し続けている。 そんなある日、担任を受け持つクラスの生徒・新妻(演・猪狩蒼弥)がバイト先で一緒だった主婦から性被害に遭ったと告白される。男性である新妻は肉体的には逃げられたはずなのになぜ逃げなかったのか? 自分の経験もあるので、彼に対してつい詰問調で話しているうちに、美鈴は感性が鋭い新妻から貴重な「嘘がつけない大人」と認識され、好意を寄せられる。やがて美鈴が早藤からの加虐を受けていることを知った新妻は、その状況から美鈴を救い出すための一助になればと防犯ブザーを彼女に手渡すのだが、その刹那ブザーが突発的に鳴ってしまい、声を上げようとした彼女の口を思わず押さえてしまう—その構図はお互いが忌み嫌っていたはずの男性による女性に対する「力での支配」そのものだった……。描かれていることはハードなのだが、お互いのトラウマを吐き出し合いながら性差を超えた信頼関係を獲得していく美鈴と新妻の物語は今だからこそ読まれるべき”傷だらけのビルディング・ロマン”だ。原作の熱烈なファンだった三木康一郎監督が長年映画化を試みてついに実現した作品だけあって、映画『先生の白い嘘』は、原作のエッセンスを最適なかたちで映像化している。そして、原作を精読して新妻役に臨んだ猪狩蒼弥の作品と役柄への理解度が深すぎる! というわけで今号は『先生の白い嘘』を表紙巻頭として以下タブーに踏み込んだチャレンジングな映像作品を多数紹介します! 題してStroking the Taboo。まずはこの役を演じ切ったことで12ページで語られる個人としての野心に一歩近づいたことは確実の猪狩蒼弥ロングインタビューから。
以下見出しより
(『先生の白い嘘』で演じた新妻役に関して)
「意外だなっていうのを自分自身もめちゃくちゃ感じていて、なんで俺なんだろう? これは作間じゃない?と思っていたので、後から製作の方に“なんで僕だったんですか?”と訊いたんです。そうしたら写真を見て僕を選んでくださったと教えていただきました。自分自身、若干裏方志向というか、クリエイティブな部分の方を自分の中では磨いていたんですけど、このタイミングでこの役に挑戦できたことは、ものすごく大きな経験でした」(芸能は天職だと思いますか?という質問に)
「はい。子供の時から漠然と、お金持ちとか、社長とか、偉人とか、いわゆる名を残すというものに対して憧れがめちゃめちゃあって、それがカッコいいって思っていたんです。名を残すためには自分が幸せになりたい以上に他人も幸せにしなきゃいけないということに気がついた結果、芸能界に魅力を感じるようになりました。芸能は、そもそも誰かに求められなきゃいけない仕事だから、自分のことばっかりやっていても結果的に落ちていってしまう。とすると、芸能界は一人よがりにならずに人も幸せにできる世界で、それは自分にとって本当に向いているなと思ったんです。芸能で成功したら、空っぽの金持ちでなく、中身のある人間になれるんじゃないかと、子供心に思っていたんですね」 - 杉咲花『朽ちないサクラ』撮り下ろしインタビュー12ページ
- 以下見出しより
(市子や泉のように内省的な役を求められることに関して)
「自分自身、悲しい時に大きな声で泣いて、怒った時に激怒できるような人間ではないし、現実ではそういうことってほとんどない気がするんですよ。私は物語を見る時にそれがフィクションでも物語の中で生きている人物は自分と同じ生活者なんだって思えたら嬉しいし、そこに手触りや体温、匂いを感じていたいんです。だからこそ、感情の発露に対して、センシティブに考えたい気持ちがあって。そこに実在感を感じ取っていただけたり、この先もそうした役を求めてもらえるのだとしたら、すごく嬉しいですね」その他、『化け猫あんずちゃん』『メイ・ディセンバー ゆれる真実』『新・三茶のポルターガイスト』など「タブーを撫でる」作品を多数ラインアップ!