spoon. 161号
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spoon. 161号

  • 本体価格 ¥907
  • 発売日 2024.08.28
  • コード 05475-10
表紙巻頭特集
『ナミビアの砂漠』山中瑶子監督×カナ役・河合優実×ハヤシ役・金子大地 表紙巻頭撮りおろし鼎談14ページ!
『ナミビアの砂漠』山中瑶子監督×カナ役・河合優実×ハヤシ役・金子大地 表紙巻頭撮りおろし鼎談14ページ!
特集リードより

『ナミビアの砂漠』はターミナル駅を歩く主人公のカナ(河合優実)を遠景で捉えた長回しから始まる。彼女は、日焼け止めを丁寧に首の裏側から肩口まで塗る。その一連の動作の捉え方は、サバンナの野生動物の生態の記録映像のよう。その後、カナは喫茶店で久々に高校時代の友人と会い、そこで彼女から高一のときのクラスメイトが自殺したと伝えられる。しかし、その名前を聞いてもカナは「あの縮毛矯正の?」としか思い出せない。二人の背後では昔と今のワークライフバランスの違いについて話し合う3人の若い男性がなぜか比喩に下ネタを織り込んでいて、カナは、顔も忘れてしまったクラスメイトの死よりつい耳に入ってしまうノーパンしゃぷしゃぶというワードに注意が向いてしまう。
--この序盤の5分あまりの導入部で本作『ナミビアの砂漠』がただならぬ作品であることが強い圧を持って示唆される。以降、カナはホストクラブで軽飲みして、歌舞伎町でハヤシ(金子大地)と落ち合う。カナはホンダ(寛一郎)と同棲しているので、浮気になるが二人はそのタブーを犯しているスリルも相まってラブラブのピーク。歩き出した二人にカナから暴言を吐かれたスカウトマンが腹いせにハヤシに声をかける。
「お兄さん、その女やめた方がいいですよ。そいつ梅毒持ってっから」
その捨て台詞はカナにとっての呪いになったのかもしれない。ホンダを捨て、あれほど好き合っていたはずのハヤシと同棲を始めたカナのメンタルは徐々に壊れていく。そんなカナの「経過観察」をカメラはナショナルジオグラフィックTVのように長い時間をかけて捉え続けて行く……。
これは、映画史的に見ても相当重要な作品になるのではないか? 後述する今の時代を生きるカナのリアリティラインの強さと彼女のメンタルの壊れ方の表現の独自性。そしてそんな混沌に満ちた作品なのに映像的な快楽性と不思議な多幸感が共存していて、没入感がハンパない! しかもそこに、17歳のとき、山中瑶子監督の自主映画作品『あみこ』の上映会に参加し、監督に「女優になります」という宣言を書き記した手紙を手渡した河合優実と山中瑶子監督の初コラボレーション作品というサイドストーリーまである!! そこで今号は山中監督とカナ役の河合優実、ハヤシ役の金子大地を、映画の定型を壊し更新する「攪拌者たち」と名付けて以下ロング鼎談をお届けします!!!

以下見出しより

(主人公のカナの職業が脱毛サロンの施術者である理由について)
山中「それこそ私が18歳のとき実際に脱毛サロンで契約した経験からです。映画と同じように友達に誘われてカウンセリングに行ったら「今日契約すればかなりお得ですよ」みたいな今思えば簡単でよくある口上に、まんまと全員引っかかって(笑)。必死に高いお金払いましたけど、いつまでたっても終わらなかったんです(笑)。毎回施術の人が変わるんですが、最初のうちは何人もの知らない相手に裸を晒して、淡々と毛根に光を当てられていくことのシュールさがおかしかったんですが、次第にルッキズムと資本主義の結びつき方に恐怖するようになって。そのことを思い出しました。それに、まだ映画で脱毛サロンって見たことないですしね」

(劇中、ホンダとハヤシと二股をしていた方がカナの精神は安定していて、ハヤシの元に走ってからメンタルが壊れていく件で)
河合「はたから見たら、別にホンダと一緒にいればいいじゃんって思いますよね。ホンダ優しいし。でも、カナはそんなホンダがつまんなくなっちゃったんだと思います。ひどい話ですけど(笑)。それに、そもそも二股って人としては間違っているじゃないですか? だから、心のどっかでどちかを選ばないといけないと考えていたと思うんです。なので、ハヤシにホンダと別れてほしいと要求されたときにカナはすごくキラキラした気持ちになったと思うんです」

(劇中、カナが遠山ひかり(唐田えりか)と一緒に焚き火を飛び越えながら『キャンプだホイ!』を歌う中毒性のあるシーンについて)
河合「あのシーンは元々はなかったんです。焚き火のシーンを全部撮り終わった夜の森で“『キャンプだホイ!』って歌えますか?”って突然言われて(笑)。歌えないことはないけど、全部ソラで歌えるほどではないので、その場で何回か聞いて、唐田さんと覚えてから歌ったんですけど、“本当に使われるのかな、これっ?”と思いながら歌っていたんですけど、しっかり使われていました(笑)」

(『ナミビアの砂漠』というタイトルについて)
山中「思いついたのは脚本が6、7割できてからです。ナミビアの砂漠の水飲み場のYouTubeの実際の映像をモチーフにすることを思いついて。その前まではずっと『エメラルドゴキブリバチ』という仮題でした(笑)。映画の中で水飲み場に集まる動物は3匹なので、カナとホンダとハヤシかなと思っています」

金子「そうなんですね! ナミビアの砂漠の水飲み場を僕は知らなかったんですけど、あの映像を観てなるほどな、と思いました」